ERC 1155

ERC-1155はEthereumブロックチェーン上のマルチトークン標準であり、2018年にEnjinチームが初めて提案しました。この標準は、単一のスマートコントラクトで複数トークンタイプ（ノンファンジブルトークン（Non-Fungible Token）とファンジブルトークン（Fungible Token））の管理を可能にし、オンチェーン取引の効率を向上させ、ガスコストを削減します。ゲーム、デジタルアート、メタバース資産のインフラとして重要な役割を果たしており、ERC-1155はブロックチェーンデジタル資産の標準化における画期的な存在です。

背景

ERC-1155標準は、従来のブロックチェーン資産標準の限界を克服する必要性から生まれました。導入以前は、

1. ERC-20は単一のファンジブルトークンのみ対応し、各トークンタイプごとに別々のコントラクトが必要でした。
2. ERC-721はノンファンジブルトークン標準として、NFTごとに独立した管理が必要で、バッチ処理には不向きでした。
3. ゲームやデジタルコレクティブル分野では、複数資産タイプの同時管理へのニーズが高まっていました。

Enjinの開発チーム（Witek Radomski、Andrew Cooke、Philippe Castonguayら）はこれらの課題を解決するためにERC-1155プロトコルを提案し、2018年6月に初期案を提出。2019年6月17日にEthereumコミュニティで正式に採用されました。

動作メカニズム

ERC-1155標準は、以下の技術的特徴によってマルチトークン管理を実現します。

1. バッチ処理機構：複数種類のトークンを1回の取引で送信でき、大幅なガスコスト削減につながります。

2. セミファンジブル特性：ファンジブルトークン（ゲーム通貨など）とノンファンジブルトークン（ユニーク装備など）の両方を同じコントラクトで管理できます。

3. メタデータ管理の最適化：URI機構を利用し、すべてのトークンのメタデータを格納したJSONファイルへのリンクで一元管理でき、個別保存の必要がありません。

4. 安全な転送機構：safeBatchTransferFromなどバッチ安全転送関数と受信コントラクトの検証機能により、非互換コントラクトへのトークンロックを防ぎます。

5. 残高照会効率：アカウントが保有する複数トークンの残高を1回の呼び出しで確認でき、ネットワークリクエスト数を削減します。

ERC-1155のリスクと課題

ERC-1155標準は多機能ですが、次のような課題やリスクがあります。

1. 複雑性：マルチトークン管理によりコントラクトが複雑化し、開発者には高度なセキュリティ監査と検証が求められます。

2. メタデータ依存リスク：外部メタデータへの依存により、リンク切れやデータ消失が資産の信頼性を損なう可能性があります。

3. トークン履歴管理の難しさ：複数資産の一括管理により、特定トークンの履歴追跡が難しくなります。

4. 互換性課題：一部の初期NFTマーケットプレイスやウォレットではERC-1155対応が不完全で、ユーザー体験に影響する場合があります。

5. 規制の不透明性：NFTやゲーム資産市場の発展に伴い、マルチトークン標準に対する新たな規制要件が生じる可能性があります。

ERC-1155標準は、ブロックチェーン資産管理の進化を牽引し、特にゲーム、メタバース、デジタルコレクティブル分野の基盤インフラとして機能しています。ファンジブルトークンとノンファンジブルトークンの統合管理によって、リソース最適化と柔軟かつ経済的なデジタル資産インタラクションが可能になります。Web3エコシステムの拡大に伴い、ERC-1155はデジタル所有権や仮想経済において、今後ますます重要な役割を果たすでしょう。